NPOローハスクラブ




「新月の木」月の魔力が森を守る

新月の木」ってご存じですか。日本には「夜空に月のない時期(旧暦の月末)に伐る木や竹は長持ちする」と言い伝えられ、林業関係者では広く知られてきました。新月伐採木の普及活動とともに新月の木の家を推奨している、新潟林業株式会社の大矢久雄さんにお話しを伺いました。

「新月の木」って何? 月と森と木の秘密

自然界のあらゆるものは太陽と月の影響を受けており、植物や木も例外ではなく、太陽や月のリズムに影響されていることを、昔の人は良く知っていて、木を切る時期を選んでいたのだと思います。
日本では良い木材を得るには「木が眠っている」時に伐採するのが当たり前でした。木が眠るとは、春夏の成長期が終わり、長い冬が始まる11月、12月のことです。つまりこの頃の下弦の月から新月に至る1週間程の期間に伐採された木は、最高の「新月の木」になります。
月のリズムがつくる「新月の木」は、腐らない、反らない、虫がつかない、火が燃え付かない、室内の空気を浄化し、シックハウスにならない。そして何百年も使え、日本の山林を回復させることにもなるというのです。大矢さんはこの頃に伐採する木を1年間かけて探し、山を歩き、買い付けて「新月の木」を生産しているのだと言います。

オーストリアにも「新月の頃に伐った木は虫がつかないし、長持ちする」という言い伝えが昔からあったそうです。近代林業の中では迷信だと無視されていましたが、エルヴィン・トーマ氏の著書「木とつきあう知恵」の原書が1996年に出版されると賛否両論の大反響があり、ドイツではベストセラーになりました。その後、チューリッヒ大学で研究が行われ、その内容が正しいと実証されてからは、ヨーロッパでも「新月の木」を使う動きが広がっています。

月の魔力が森を守る 名器“ストラディバリウス”も「新月の木」

「月」と「木」はいったいどんな関係があるのでしょうか。あのヴァイオリンの名器「ストラディバリウス」も新月の木でつくられていると言います。世界最古の木造建築として知られている法隆寺も「闇伐りの木」つまり、「新月の木」を使っているといいます。
美しく塗られた漆の器に使う木には、日本人はことのほか慎重に木を選んだと考えられます。神社仏閣のすぐれた木造建築には長い時間を掛けて木を選んでいます。「一輪の花を見て宇宙を感じる」日本人の感性が「新月の木」を伝承してきたと言えます。

大矢さんが「新月の木」に関わるきっかけとなったのは、国産の木材が輸入材におされて価格が低迷している中で、国内の林業経済が疲弊し、手入れされなくなった森林は傷みはじめ、長い年月をかけて作られた自然が失われています。森林の健全化を図り、循環型資源である木材の需要拡大をどのように進めたらよいか。
そんな中で、新月伐採方法により、付加価値のつけた高品質な建築素材を生産することが出来るという話を聞いたそうです。そして、持続可能な林業の推進と森林経済の活性化等の、支援活動を進めていくための協会を作る動きがあり、その趣旨に賛同して「新月の木国際協会」設立に参画されたのです。
しかし、活動と本業の木材業を両立させることは容易ではなかったようです。産地を選び、樹木を選択し、伐採してから「葉枯らし」という伐採したまま枝葉をつけたまま数ヶ月山に放置し翌年山からおろすのです。冬が始まる時期の下弦の月から新月に至る1週間程の期間に伐採する「新月の木」の生産期間は1年間でほんのわずかです。そして「葉枯らし」を十分に行うことが「新月の木」では不可欠で大切な手順です。さらに製材後は天然乾燥させなければ、弾力のある強い木にはならず新月の木の持つ良さが発揮されません。これらを全て満たして初めて「新月の木」が誕生します。
その間資金は固定し時間が経過し経営を圧迫させます。この費用を充分に価格に転嫁出来ないのが大矢さんの悩みですが、「最近では『新月の木』で家を作りたいという方も増えてきて、希望が持てる状態になりました」と手応えを感じ始めたようです。

新月伐採木のトレーサビリティも

NPO法人「新月の木国際協会」では、森林の成長サイクルより長く使える木材の確保、それは美しい森の再生。よい木を使って健康に満ちた生活、そして森林経済の活性化を目的に幅広い活動を展開しています。
樹木は、それぞれの生育場所に対応した細胞ができあがります。木曾の檜、九州飫肥の杉など地域名産の銘木は沢山あります。地域に育った木は、その地域で利用することで地域社会の活性化と独特の地域文化を育みます。地産地消は森の木でも活かされ、山に還元されるサイクルを推進しています。

新月伐採木の基準は、(1)冬期伐採(10月下弦の月~翌年1月31日)…寒くなり水の吸い上げが弱く、成長が遅くなる時期。(2)新月期伐採(下弦~新月)(3)葉枯らし(4ヶ月以上)…伐採して枝葉をつけたまま、山で枯らします。乾燥した冬風で葉から水分が抜けると同時に、腐れや虫食いの原因となるデンプン質が消費されます。

「新月の木」を生産するにあたって、大切なのは「本当に新月に伐ったのか?」を証明することです。これは「現認者」と呼ばれる人たちが木一本一本について履歴を取る作業から始まります。こうした履歴は木に付けられたラベルによって管理され、製材・製品になった後まで履歴の追跡が可能になります。どこの山で採れた木なのか、どういった管理をされたのか、といった産地証明、生産証明を明確にし、家の柱がいつ伐られたか、どこのどんな木だったかがわかるのです。
カビ・虫に侵されにくく、割れ、暴れ、くるいが出にくいなど実用性に富み、永年に渡り耐久性のある無垢材の入手が可能になれば、合成接着材による合板、集成材、パーチクルボードなど加工材への依存度が減り、やがて地球環境への負荷の低減や、シックハウス被害の根絶など、森林、木材、建築産業が抱えている問題解決に向けて大きく寄与できることになります。
大矢さんのお話しを聞いていると、「新月の木」は、私たちが失ってしまった月のリズムを感じることを思い出させてくれます。

自然界では人間だけがカレンダーや決められた時間感覚で生活しています。人間は自然時間を拒否した唯一の生物種だとも言えます。月のリズムが人間以外のすべての動物や植物に影響を与えているとすると、人間はまだまだ月のリズムから学ぶことがあるのではないかと考えさせられます。
私たちは、この半世紀の間、科学技術や経済的な繁栄に目を奪われ、伝統的なものや、自然なものの良さを見られなくなったのかもしれません。

日本の文化は木の文化

今、世界的に森林が減少しており、大きな問題となっています。森林保護のためには木材を使わない方がよい、という声もありますが、そう言い切ってしまってよいのでしょうか?林野庁では「もっと木材を使いましょう!」と言っています。
日本では、国産の木材があまり使われていません。日本の森林から利用される木材は、2割だといいます。実に8割が外国のものです。このため、手入れが行き届かないヒノキ、スギなどの人工林が増えています。間伐材など木材を有効利用することにより、「植える→育てる→収穫する」という森林のサイクルがうまく循環します。

左が新月伐採の木で作ったお椀、右が満月伐採の木で作ったお椀

日本の森林は、住宅の柱など材料としての「良い木材」を得るために、人々が植えた「人工林」が4割程度を占めています。この人工林の木々はまだ比較的若くどんどん生長しているのですが、このような森林を手入れしないで放っておくと、木がぎゅうぎゅうに詰め込まれた状態となり、地面まで光が届かないために、幹も根も十分な成長ができなくなります。
かつて日本には、木を使うことによって森林を保持してきた文化がありました。しかし、現在流通している国産材は、わずか40年程で伐採され、伐採時期も守られず、産地不詳のまま、石油エネルギーで強制乾燥させられたものが殆どです。こんな国産材で家造りをしても、森は守られず、地球温暖化を促進するばかりです。先人から受け継いだ良質な資源を出来るだけ無駄にしないで利用すること。地球環境にも優しい木材であること。それが『新月の木』に課せられた使命だと思います。

Return Top